破水
午前10時ごろ破水。
最初は尿とは違う感覚なのに、お股から水がチョロチョロ出始めたようだ。
最初はトイレに行って、尿かどうか確かめたようだ。
しかし膀胱、尿道を通った感じではなく、生理のような感覚だったという。
液体が膣を伝って降りているからだろう。
極め付けは破水した液体(羊水)は匂いが精子と似ているとネットで見たようで、クンクン嗅いだようだ。
精子じゃ!!
嫁の最終判断はここだったらしい。
精子の匂いを知っている嫁というのも笑えるが、とにかくこれが極め付けとなり、ご両親に告げたようだ。
入院
破水すると入院になる。
破水は高位と低位があるようで、高位破水は私の妻のように頭側の卵膜が切れることで子宮内膜で圧迫されているため、チョロチョロとしか羊水が出てこない。
対して低位破水は膣側に卵膜が破損しているので羊水が一気に出る。
なお高位破水の方が徐々に羊水が抜けるため胎児への負荷が少なく比較的安全と言える。
また破水によって卵膜内は無菌ではなくなる。
なので破水後は入浴、シャワーなどは胎児の細菌汚染につながるので厳禁。
入院し予防的に抗生剤を使用するようだ。
入院してからしばらくは陣痛が続くもののまだまだ余裕を見せており、意外とそこまで大変ではないのでは?と勝手に期待したりした。
早まる陣痛の間隔、強まる陣痛の痛み
この日は私はオンコール(有事の際呼ばれる日)だったため、自宅待機していた。
当直じゃなかったため、有事対応していない限り妻からの連絡をいつでも受けられる状態にあった。
午前10時ごろ入院になり、しばらく連絡なかったが、夕方ごろユニクロで新しい自分のパンツを物色してたところFaceTimeで妻からコール鳴る。
先程の余裕はいずこに!ってくらい妻がぐったりしている。
もう夕方ごろはすでに陣痛感覚は数分おき、その痛みも相当に強いようだ。
数分おきにとんでもな痛みを強制的に味わうため、拷問に近いような印象だった。
そんな苦しみを味わう妻が、少しでも気持ちを紛らわせるため、勇気をもらうために、オンコールだとわかっても連絡をよこした。
そんなぐったりして、私に連絡し、私の顔見て少し微笑む妻をみて、UNIQLOのパンツを握りながら不覚にも泣いてしまった。
「頑張って、って言ってくれない?」
そう妻が呟くので、がんばれ!がんばれ!と伝えると、妻はにっこり微笑んでありがとうと言った。
もうユニクロからの帰りの車は涙ボロボロだ。
お産現場
その後ながらく連絡はなかった。
オンラインでの立ち会い出産可能だが、今回はともに希望しなかった。
出産を立ち会ってもその時何もできずただ呆然とみているだけだろうし、無力感、疎外感を感じたくなかったし、妻も全力必死なところあまりみられたくないと思っていたからだ。
なので、連絡が来た時はすでに生まれているものと思った。
22時ついにFaceTimeのコールが鳴る。
遂に生まれたか!!
あたふたして応答のボタンを押すと
あ、あれ?
絶賛お産中である。
向こうから映る私の顔があまりにも間抜けづらだったのか、助産師さんたちが
ほら!何か声かけてあげて!!
とおしかりにも聞こえる剣幕で言われてしまい
が、頑張れよ!
とこれまた気の利かない呆けた声で応じた瞬間
もう頑張ってるわよ!!
とこれもまた身も蓋も無いことを助産師さんに言われてしまった。
そのやりとりがおかしかったのか、妻はこちらみて少し微笑んだ。
あとから聞いた話だが、助産師さんが出産間近になったところで「ほら、旦那につなげるわよ!」と言ってiPadの画面を持ち上げるも、嫁も必死なので、肯定も否定もできず、また嫁も必死の形相なので、iPadがFace IDが反応せず一時周囲がてんやわんやしていた一幕があったようだ。
お産は画面の向こうで続いている。
こちらはただ祈るしか無い。
がんばれ!がんばれ!
と心で呟きながら見守った。
しばらく助産師と産科医の掛け声のもと、妻は力みと緩みを繰り返した。
切迫感と緊張感が画面の向こうから伝わり、私も画面を齧り付くように見守っていた。
何分くらい見守っていただろうか。
その瞬間を固唾をのんで見守っていた。
おぎゃー!おぎゃー!おぎゃー!
画面の向こうで産声とともに周囲から歓声が湧き起こり、妻が「かわいいー!!」と自身の足元に手を伸ばした。
妻はその小さな体で産声をあげる生命をみて、その瞬間愛しさが爆発して思わず「かわいい!!」と声を張り上げたようだ。
周囲にお構いなく、ただただかわいいと言い続け妻は涙した。
素晴らしい。
素晴らしいものを見た。
なんて感動的な瞬間なのだろう。
リモートのせいか、陣痛を実際経験していないからか、どこか当事者意識が持てなかったところもあったが、かえって映画の中の一本の感動的ストーリーを今日一日体験したような気分になった。
立ち会ってよかった。
本当に今は思う。
今日は二人とも本当にお疲れ様。
ゆっくり休んでね。
我が子よ、かならずすぐに会いに行くからね。
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